交通事故で大腿骨骨折したら?後遺障害等級・慰謝料相場を解説
- 執筆者弁護士 山本哲也
交通事故によって大腿骨を骨折した場合、手術や長期の入院・リハビリが必要となることが多く、後遺症が残るケースも少なくありません。
このようなとき、「後遺障害等級の認定を受けることで、適正な慰謝料や損害賠償が請求できる」という制度があります。
ここでは、大腿骨骨折に関する後遺障害等級の判断基準や、慰謝料の目安金額、弁護士に依頼するメリットなどについて、わかりやすく解説します。
目次
交通事故による大腿骨骨折の基礎知識
大腿骨の役割と重要性
大腿骨は太ももの骨で、人体で最も太くて強い骨です。
股関節(太ももの付け根)から膝にかけて体重を支える構造となっており、歩行や立位の安定に不可欠な存在です。
大腿骨骨折の種類と特徴
大腿骨骨折の分類と概要
大腿骨骨折には以下のような分類があり、それぞれ治療方針や後遺症のリスクも異なります。
大腿骨骨折の分類
名称 | 概要 |
---|---|
大腿骨頭骨折 | 股関節のボール状の先端。脱臼とともに起きることが多い。 |
大腿骨頸部骨折 | 骨頭の下の細い部分。血流が乏しく、骨癒合しにくい。 |
大腿骨転子部骨折 | 頸部に続く太い部分。癒合しやすいが高齢者に多い。 |
大腿骨骨幹部骨折 | 大腿骨の中央部。外傷による強い衝撃が原因。 |
大腿骨顆上骨折 | 膝関節に近い部分。関節機能に影響することも。 |
交通事故での骨折が起きる状況
大腿骨骨折は、日常生活では高齢者の転倒・転落などにより生じやすいです。交通事故においても、強い衝撃が加わることにより大腿骨を骨折するケースがあります。
交通事故における大腿骨骨折は、以下のような状況で発生しやすくなります。
-
歩行者が車にはねられた
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自転車やバイクで転倒し、太ももに強い衝撃を受けた
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車内での衝突により足が圧迫された
治療法とリハビリ
大腿骨骨折は、保存療法ではなく手術療法が選ばれることが多いです。代表的な手術法は以下の通りです。
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骨接合術(プレートやボルトによる固定)
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人工骨頭置換術
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人工関節置換術
治療後は長期のリハビリが必要となることも多く、社会復帰や日常生活への影響も大きくなります。
大腿骨骨折に伴う後遺障害の等級と症状
大腿骨骨折で後遺症が残ったら、どうすればよいのでしょうか?
完治しきれず、脚の痛み・動きの悪さ・しびれなどの症状が続く場合、「後遺障害等級認定」という制度を利用することで、将来的な損害に対する補償(慰謝料や逸失利益)を受けられる可能性があります。
後遺障害等級認定とは
後遺障害等級認定とは、交通事故によって生じた後遺症について、損害保険料率算出機構が症状の重さや影響をもとに「等級」を認定する制度です。
認定された等級に応じて、被害者は自賠責保険や加害者側保険会社から一定の賠償金を受け取ることができます。
等級の判断基準とは?
後遺障害の等級は、主に以下の観点から評価されます。
- 長さの違い(短縮)
-
機能の喪失(例:可動域制限)
-
形態の変化(例:偽関節や骨の変形)
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神経の損傷(例:しびれや痛み)
以下、それぞれの症状について詳しく解説します。
短縮障害(脚の長さに差が出る)
骨がくっつく過程で、ケガをしていない方と比べて脚の長さが短くなってしまった場合には、短縮障害として後遺障害が認定されます。
等級と認定基準は以下の通りです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
8級 | 5cm以上短縮 |
10級 | 3cm以上短縮 |
13級 | 1cm以上短縮 |
わずかな違いで認定される等級が変わる可能性があるため、正確に測定しなければなりません。
機能障害(関節が動かなくなる)
大腿骨骨折の影響で、股関節あるいは膝関節の可動域が健康な側と比べて一定程度制限された場合には、機能障害として後遺障害が認定されます。
人工関節や人工骨頭の有無に応じて基準が変わる点が大きな特徴です。
【人工関節・人工骨頭を挿入したとき】
等級 | 認定基準 |
---|---|
8級 | 人工関節・人工骨頭を挿入したが可動域が1/2以下になった |
10級 | 人工関節・人工骨頭を挿入した(8級に該当するものを除く) |
【人工関節・人工骨頭を挿入していないとき】
等級 | 認定基準 |
---|---|
8級 | 全く動かないor可動域が10%以下になった |
10級 | 可動域が1/2以下になった |
13級 | 可動域が3/4以下になった |
関節の可動域によって認定される等級が変わるため、正確な測定が重要です。
変形障害(骨の形が変わる)
治療しても折れた大腿骨が元通りにならないと、変形障害として等級が認定される可能性があります。等級と認定基準は以下の通りです。
見た目の問題だけでなく、将来的な関節炎や歩行困難にもつながるため、生活上の不自由が大きい症状です。
等級 | 認定基準 |
---|---|
7級 | 偽関節(※1)となり、常に硬性補装具が必要である |
8級 | 偽関節(※1)となった(7級に該当するものを除く) |
12級 | 大腿骨に変形がある(※2) |
※1 「偽関節」は、大腿骨の骨幹部(中央部)等がうまく癒合せずに本来動かない部分が関節のように動いてしまう状態を指します。
※2 以下のいずれかの状態を指します。
・外部から変形がわかる(15度以上屈曲して不正癒合した) ・骨端部(端の部分)に癒合不全が残る ・骨端部のほとんどを欠損した ・直径が2/3以下になった ・外旋45度以上または内旋30度以上回旋して変形癒合した |
神経症状(しびれ・痛み)
神経が傷ついて痛みやしびれが残る場合には、神経症状として後遺障害が認定される可能性があります。
等級と認定基準は以下の通りです。
等級 | 認定基準 |
---|---|
12級 | 痛みやしびれについて画像から医学的に証明できる |
14級 | 画像所見は認められないが、痛みやしびれを医学的に説明できる |
痛みやしびれは本人にしかわからない症状のため、詳細な症状の記録や医師への説明が非常に重要です。
大腿骨骨折による慰謝料とその他の賠償
後遺障害等級が認定されると、等級に応じて「後遺障害慰謝料」を賠償金として受け取れます。
慰謝料には、以下の3つの基準があります。
- 自賠責保険基準 :自賠責保険の支払い基準
- 任意保険基準 :任意保険会社が会社ごとに定める基準
- 弁護士基準 :過去の判例を元にした、弁護士が請求する際の基準
任意保険基準は公表されていないため、ここでは自賠責保険基準と弁護士基準による後遺障害慰謝料をご紹介します。
後遺障害慰謝料の相場(等級別)
大腿骨骨折で認定され得る等級について、後遺障害慰謝料は以下の通りです。
等級別の後遺障害慰謝料の比較
等級 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 190万円 | 550万円 |
10級 | 94万円 | 290万円 |
12級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
等級によりますが、自賠責保険基準と弁護士基準とで3倍程度の違いがあるとおわかりいただけるでしょう。適正な補償を受けるには、弁護士に依頼して弁護士基準で請求するのが重要です。
その他に請求できる損害項目
後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料の他にも、以下の費目が請求可能です。
-
後遺障害逸失利益(後遺障害で労働能力が落ちたことによる損害)
-
将来の介護費用(重度後遺障害の場合など)
-
装具費・通院交通費
後遺障害認定で損をしないためのポイント
後遺障害慰謝料や逸失利益は認定される等級によって金額が大きく変わるため、適正な等級認定を受けるのが非常に重要です。
以下に等級認定のポイントをまとめました。
医師の判断を待たずに「症状固定」とされないよう注意
保険会社による早期打ち切りに要注意
治療しても完治しないときは、やがて症状固定と呼ばれる状態を迎えます。症状固定とは、それ以上治療をしても症状の大幅な改善が見込めない状態です。後遺障害認定は、症状固定時の症状を対象に行われます。
症状固定を判断するのは基本的には医師です。しかし、相手方保険会社が、本来よりも早い時期に、症状固定したとして治療費の支払いを打ち切ろうとしてくる場合があります。早期に症状固定としてしまうと、十分な治療ができないのはもちろん、症状によっては後遺障害認定においても不利に働くおそれがあります。
症状固定を主張された際には、主治医に本当に症状固定の状態に至っているかを確認するようにしましょう。
後遺障害診断書の記載内容が等級を左右する
医師任せにせず、正確な記録・検査がカギ
認定を受ける際に必ず提出するのが、医師の作成する「後遺障害診断書」です。後遺障害診断書は正確に記載してもらうようにしましょう。後遺障害の認定は基本的に書面審査であり、とりわけ後遺障害診断書の内容が重視されるためです。
後遺障害診断書に書かれていない症状は認定の対象になりません。認定可能性のある症状については漏れなく記載してもらいましょう。自覚症状は医師に伝え、反映してもらうようにしてください。
認定に必要な検査を正しく実施してもらうのも重要です。たとえば股関節の可動域を検査していない、あるいは正確に測定できていないといった事態が生じると、適切な等級が認定されません。
医師は治療には詳しくても、後遺障害認定に精通しておらず十分な書面を作成してくれないケースがあります。注意しましょう。
経験豊富な弁護士なら、診断書の記載内容までサポート可能
交通事故の対応に慣れていて、後遺障害等級認定にも詳しい弁護士であれば、残った症状に応じて診断書にどのような内容を記載してもらうべきかを適切に判断できます。
そのうえで、必要に応じて医師に伝えるべきポイントをアドバイスしたり、医師に説明してもらうように依頼することも可能です。
等級に不服がある場合の「異議申立て」
後遺障害等級の認定結果に納得できない場合は、「異議申立て」を行うことが可能です。
新たな検査資料や医師の意見書を提出することで、等級が変更されるケースもあります。
一度で諦めず、弁護士に相談して再申請を検討しましょう。
弁護士に依頼するメリットとは?
適正な等級認定を受けるには、交通事故に精通した弁護士に依頼するのが効果的です。
弁護士は医師の作成した後遺障害診断書をチェックして、記載に問題がないかを確認いたします。他の書類の収集・作成も含めて申請手続きを任せられるため、皆様の負担が軽減されます。一度申請をしている方についても、適切な認定がなされているかを検討した後に異議申し立てが可能です。
加えて、相手方との交渉や訴訟等もお任せいただけます。弁護士基準で算定した金額を請求できるため、ご自身で請求する場合に比べて受取金額が高額になる可能性が高いです。やりとりや手続きに伴う心理的負担も軽減できます。
とりわけ大腿骨骨折は重いケガであるため、弁護士に依頼するか否かで大きく結果が変わりやすいです。
交渉だけでなく「損害額の適正な立証」もサポート
弁護士は単なる交渉代理人ではありません。
事故の内容やケガの程度に応じた資料収集や、医師との連携、損害額の根拠づけまで担います。保険会社との交渉でも、法的根拠に基づく主張ができるため、結果的に賠償金が大幅に増える可能性があります。
まとめ
大腿骨骨折の後遺障害は、今後の生活や賠償金に大きな影響を与える重要な問題です。
適切な治療や認定を受けるためには、医師だけでなく法律の専門家のサポートも欠かせません。以下に、本記事のポイントを振り返ります。
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大腿骨骨折は重傷であり、後遺障害が残りやすいケガである
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後遺障害の等級によって慰謝料や逸失利益などの賠償金が大きく変わる
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適正な後遺障害認定を受けるには、医師との連携や書類作成が重要
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弁護士に依頼することで、等級認定から賠償金請求までをスムーズに行える
交通事故被害で大腿骨骨折等の重症を負ってしまったら、なるべく早めに交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故被害はなるべく早めに弁護士に相談を
交通事故で大腿骨骨折のケガを負った方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。
当事務所は、群馬県内でも規模が大きい弁護士事務所のひとつです。群馬・高崎に密着して、地域の皆様から交通事故に関する数多くの相談を受けて参りました。交通事故の被害者サポートには特に力を入れており、大腿骨骨折についても解決事例がございます。
交通事故に関する相談は無料です。交通事故により大腿骨を骨折した方は、まずはお気軽にお問い合わせください。
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