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後遺障害逸失利益とは
後遺障害逸失利益とは「後遺障害が残ったために労働能力が低下し、本来得られるはずだったのに得られなくなった利益」です。
交通事故で被害者に後遺障害が残ると、労働効率が落ちて事故前と同じようには働けなくなります。転職を余儀なくされたり昇進や昇給が難しくなったり、ときには失職して一生働けない身体になってしまったりもするでしょう。すると、事故がなければ得られたはずの収入を得られなくなります。
このように「事故がなければ得られたはずの収入」が逸失利益です。逸失利益は交通事故によって発生した損害といえるので、後遺障害が残った被害者は加害者に対し、逸失利益の賠償を請求できます。
逸失利益が認められる被害者と認められない被害者
交通事故で後遺障害が残っても、すべての被害者に逸失利益が認められるわけではありません。
対象になる人と、ならない人がいますので注意が必要です。
どのような人が対象となり、またならないのか、以下で解説します。
逸失利益が認められる被害者
逸失利益は「事故によって得られなくなってしまった労働収入」なので、基本的に「事故前に労働によって収入を得ていた人」に認められます。
たとえば以下のような人に後遺障害が残れば、基本的に逸失利益の請求が可能です。
- 会社員
- 公務員
- アルバイト、パート
- 契約社員
- 派遣社員
- 自営業者
- フリーランス
- 主婦や主夫
主婦や主夫などの家事労働者の場合、現実に「お金」の収入がなくても家事労働に経済的な価値が認められるので逸失利益が発生します。専業主婦でも兼業主婦でも逸失利益が認められます。
- 子ども
子どもが被害者の場合、事故当時に実際には働いていなくても逸失利益が認められます。将来就職して収入を得る見込みが高いからです。
逸失利益が認められない被害者
以下のような人は労働収入を得ていないので逸失利益が認められません。
- 無職無収入の人
ただし、一時的な失業の場合は、以下の2-3.特殊なケースをご参照ください。
- 生活保護受給者
- 年金受給者
- 株式や不動産投資などの不労所得で生活している人
ただし年金生活者や不労所得のある人でも、主婦をしていたり別にアルバイトなどの収入があったりすると逸失利益を請求できます。
特殊なケース
以下の場合、逸失利益計算の際に個別の検討が必要です。
- 会社役員や経営者
会社役員や経営者の場合、会社から受け取る給料には労働による対価だけではなく「利益配当部分」が含まれます。利益配当部分は労働によって得られる収入ではないので、逸失利益計算の基礎にできません。
会社役員に後遺障害が残ったら、もらっている給料を「利益配当部分」と「労働対価部分」に分けて、労働対価部分に応じた分のみの逸失利益を計算する必要があります。
何割が労働対価部分になるかはケースバイケースです。一人会社で社長がほとんど一人で稼働しているケースなどでは、労働対価部分がほとんど100%になる可能性もあります。
一方多数の従業員を使って社長本人はほとんど労働をしていなければ、大部分が利益配当部分となって逸失利益は減額されます。
- 失業者
失業者の場合でも、逸失利益を請求できる可能性があります。事故当時たまたま失業していただけなら、事故に遭わなければその後就職して収入を得られた蓋然性が高いからです。
具体的には本人に労働の意思や能力があり、就労の蓋然性が高かったといえるケースで逸失利益が認められます。失業者の逸失利益を計算するときには、前職の収入を参考にしたり「平均賃金」を使ったりして適正な金額を算定します。
後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益の計算方法をみてみましょう。
後遺障害逸失利益は多くのケースで後遺障害慰謝料よりも高額になり、被害者にとっては非常に重要な権利です。
適切な補償を受け取るためにも、正しく理解しておく必要があります。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は下記の計算式で算出します。
後遺障害逸失利益の計算式 |
基礎収入(事故前の年収)× 労働能力喪失率 × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
それぞれの費目について、以下で解説します。
基礎収入について
基礎収入とは、逸失利益を計算するときの基本とする「年収」です。
原則的に「被害者の事故前の年収」を基準とします。
会社員のケース
会社員の場合には源泉徴収票の「総支給額」、つまり税金や各種の控除を適用する前の金額を基準に計算します。
自営業者のケース
自営業者の場合には確定申告書の「所得額(売上げから経費を引いた金額)」を基準とします。ただし地代や保険料等の固定経費や専従者給与、青色申告控除の金額などは足して計算します。
主婦や主夫のケース
主婦の場合には「全年齢の女性の平均賃金」を使って計算します。参考までに、令和3年の女性の平均賃金は385万9,400円です。
被害者が男性(主夫)の場合でも女性と差が発生するのは不合理なので、女性と同じく「全年齢の女性の平均賃金」を適用します。
子どものケース
子どもの場合、男児の場合には「男性の平均賃金」、女児の場合には「男女の平均賃金」を使って計算します。
本来は「男児は男性の平均賃金」、女児は「女性の平均賃金」を適用すべきですが、そうなると男性の平均賃金より女性の平均賃金が低いため、男児と女児の間に逸失利益の格差が発生してしまいます。参考までに令和3年の男性の平均賃金は546万4,200円であり、女性の平均賃金を大きく上回ります。
そこで格差を是正するため女児の場合、男女の平均賃金を適用します。令和3年の男女の平均賃金は489万3,100円です。
労働能力喪失率について
労働能力喪失率とは「どの程度働けなくなったか」という割合です。
後遺障害の「等級」により、労働能力喪失率の基準値が決まっています。
等級 | 労働能力喪失率 | 等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% | 8級 | 45% |
2級 | 100% | 9級 | 35% |
3級 | 100% | 10級 | 27% |
4級 | 92% | 11級 | 20% |
5級 | 79% | 12級 | 14% |
6級 | 67% | 13級 | 9% |
7級 | 56% | 14級 | 5% |
後遺障害の等級が高くなるほど労働能力喪失率が上がり、逸失利益は高額になります。
就労可能年数に対応するライプニッツ係数について
後遺障害逸失利益計算の際「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」を適用する必要があります。これは「将来受け取るはずのお金を先に一括で受ける利益を調整するための係数」です。
逸失利益は「生涯収入の減収分に対する補償」です。生涯収入は本来、事故後毎年受け取っていくはずのものです。しかし交通事故の損害賠償で支払いを受ける場合には先に一括払いしてもらいます。そうなると、本来は得られないはずの「運用利益」が発生してしまうという考えがあります。法律的にはその運用利益を「中間利息」といいます。
そこで逸失利益計算の際には、運用利益(中間利息)控除のための「ライプニッツ係数」という特殊な数字をあてはめて調整します。
就労可能年数は、原則的に67歳までと考えられているので、67歳までの年数に応じたライプニッツ係数をあてはめて後遺障害逸失利益を算定します。ただし高齢者の場合には平均余命までの年数の2分の1を基準に計算します。
後遺障害逸失利益と民法改正
後遺障害逸失利益の計算には「民法改正」が大きく影響します。
2020年4月1日から新しい民法が適用され「法定利率」が改定されたからです。
これまでの法定利率は年5%でしたが2020年4月から3年間は年3%となり、その後は3年ごとに改定されます。
中間利息控除のためのライプニッツ係数は法定利率を前提としているので、2020年4月以降の事故のケースではこれまでとは異なる数字になります。
なお中間利息は逸失利益を「控除(=減額)」するための数字なので、従来の年5%よりも新規の年3%の方が被害者にとっては有利です。
今後事故に遭ったときには「年3%の利率を前提としたライプニッツ係数が適用される」ことを押さえておきましょう。
後遺障害逸失利益の相場と具体例
逸失利益の相場
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の事故前の年収や年齢、認定された後遺障害の等級によって大きく異なります。一概に「骨折の場合の相場」「高次脳機能障害の相場」などを明らかにすることはできません。
ただし後遺障害の等級が上がれば高額になることは確かです。認定等級が1~3級などの場合、逸失利益が1億円を超えるケースも少なくありません。
最低等級の14級であっても数百万円程度にはなるケースが多数です。
逸失利益計算の具体例
- 35歳の会社員(年収600万円)が事故で後遺障害5級となった場合
600万円×79%×20.389=9664万4386円
- 40歳の自営業者(年収400万円)が事故で後遺障害14級となった場合
400万円×5%×18.327=366万5400円
※令和2年4月1日以降に発生した交通事故の例です。
後遺障害逸失利益を増額させるためのポイント
後遺障害逸失利益を増額されるには、以下のような対応がポイントとなります。
高い等級の後遺障害認定を受ける
後遺障害逸失利益は「労働能力喪失率」が高ければ高いほど高額になります。すなわち「後遺障害の認定等級が高い場合」に高額な逸失利益が払われます。そこで逸失利益を請求するには、認定されうる中でも高い等級の後遺障害認定を受ける必要があります。
交通事故に詳しい弁護士に対応を相談し、医師とも密接にコミュニケーションをとりながら適切な方法で後遺障害認定の手続きを進めましょう。
保険会社からの反論に正しく対抗する
後遺障害逸失利益を請求すると、保険会社からはさまざまな減額要因を指摘されます。
ただし保険会社の指摘や反論は間違っているケースも多いので、鵜呑みにすべきではありません。高額な後遺障害逸失利益を獲得したければ、保険会社の反論へ適切に対抗する必要があります。
よくある保険会社からの反論
労働能力が低下していない
外貌醜状や味覚障害、嗅覚障害などの場合「労働能力が低下していないから逸失利益は払わない」と言われるケースが多々あります。
しかし職業の内容によっては労働に影響を及ぼしますし、逸失利益を払ってもらえる可能性があります。
減収が発生していない
現実に減収が発生していないことを理由に逸失利益支払いを拒まれるケースがあります。
しかし収入が被害者本人の努力によってかろうじて維持されているような場合、たとえ現実的な減収がなくても逸失利益を請求できる可能性があります。
弁護士に依頼する
後遺障害逸失利益を正しく計算し、保険会社からの反論に適切に対抗するには法的な知識とノウハウが必須です。
獲得できうる限り、高額な逸失利益を獲得するためには早い段階で弁護士に相談・依頼するのが得策と言えるでしょう。
当事務所で高額な後遺障害逸失利益を獲得できた事例
当事務所で実際にお受けしたケースを紹介します。
主婦としての基礎収入を保険会社に認めさせ、賠償金を2倍に増額したケース
項目 | 内容 |
ご依頼者 | 高崎市在住の50代女性(専業主婦) |
事故状況 | 自動車で走行中に、脇道から飛び出してきた加害車両と衝突 |
傷病名 | むちうち、外傷性頚椎椎間板ヘルニア |
認定された後遺障害の等級 | 14級9号(局部に神経症状を残すもの) |
獲得できた賠償金
■認められた逸失利益の金額 約81万円
■最終解決金額 約345万円
逸失利益増額のポイント
当初はご本人が示談交渉に対応しておられて、保険会社から約46万円の逸失利益、損害総額173万円の支払いを提示されていました。被害者は「金額が妥当か知りたい」当事務所へご相談にいらっしゃいました。
被害者は主婦の方で、後遺障害逸失利益を計算する際に基礎収入377万円で算出すべきケースでしたが、保険会社はそれよりも低額な基準で計算し、逸失利益を減額していました。
当事務所でご依頼をお受けし、論理的な根拠を示して交渉を行ったところ、保険会社はこちらの主張を認め、全ての費目で増額に成功しました。
結果として、当初の提示から約2倍に増額した345万円の賠償金を獲得しました。
労働能力喪失率を争われても、満額を獲得できたケース
項目 | 内容 |
ご依頼者 | 埼玉県在住の50代男性(会社員) |
事故状況 | バイクで青信号の交差点内を直進していたところ、右折してきた加害車両と衝突 |
傷病名 | 右脛骨腓骨開放骨折 |
認定された後遺障害の等級 | 併合8級 |
獲得できた賠償金
■後遺障害逸失利益 約1,623万円
■賠償金の総額 約2,518万円
高額な賠償金獲得のポイント
バイクで事故に遭い、右下腿を骨折して併合8級の後遺障害認定を受けた男性の方の事例です。
当事務所では病院から診断書等の後遺障害に関する書類をすべて取り寄せ、症状の内容を確認しました。また刑事記録も取り寄せて過失割合を検討した結果、相手方に重過失があると判明し、5:95で提案を行う方針を固めました。
示談交渉では保険会社が「労働能力喪失率」を争ってきました。保険会社側は、右足関節と足首の可動域制限を1つの障害と捉え、労働能力喪失率を35%に抑えて逸失利益を本来よりも440万円も減額しようとしたのです。
しかし当事務所の弁護士が粘り強く交渉を行うことにより、最終的には後遺障害8級の標準的な労働能力喪失率である45%を認めさせることができました。過失割合についても、当方の主張通りの5:95に決まりました。
他の費目でも大幅な増額ができ、合計2,518万円の賠償金を獲得できました。
まとめ
以上で述べたように、後遺障害の等級が認定された場合、「後遺障害逸失利益」を上乗せして加害者側に請求する事ができます。
逸失利益の金額は後遺障害の等級や、被害者の職業、年齢等に応じて変動します。
また、保険会社が提示する逸失利益の額は低額なケースが多く、弁護士が被害者に代わって交渉を行うことで、大幅に増額するケースが多々あります。
なお、適切な逸失利益を受け取るためには、適切な後遺障害等級認定を受ける必要があります。
当事務所では適切な後遺障害認定のサポートから、適切な逸失利益獲得の交渉も交通事故専門チームがお受けしております。
交通事故の被害に遭い、お怪我をされてしまった方は、適切な逸失利益を獲得するためにぜひとも山本総合法律事務所までご相談・ご依頼下さい。
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