びまん性軸索損傷の解説
- 執筆者弁護士 山本哲也
交通事故で頭部に外力が加わると、びまん性軸索損傷を発症して意識を消失し、意識が回復しても後遺症が残ることがあります。
今回は、びまん性軸索損傷の症状や慰謝料の相場などについて、わかりやすく解説します。適切な賠償金を受け取るためにも、ぜひ最後までお読みください。
目次
びまん性軸索損傷とは
びまん性軸索損傷とは、交通事故などで頭部に回転性の外力が加わり、脳が頭蓋骨の中で強く揺さぶられることにより、神経細胞や繊維が広範囲にわたって損傷した状態のことです。
脳内の神経細胞から他の神経細胞へ信号を伝える部分(軸索)の損傷が、広範囲に広がって生じる(びまん)ことから、「びまん性軸索損傷」と呼ばれています。
交通事故で頭部に直接衝撃を受けた場合の他、頭部が前後や左右に強く揺さぶられた場合にも、びまん性軸索損傷を発症することがあります。
受傷直後から意識消失が6時間以上続くにもかかわらず、CT.検査で頭蓋内出血などの明らかな異常が認められない場合に、びまん性軸索損傷と診断されます。
びまん性軸索損傷の症状の経過
びまん性軸索損傷の症状の特徴は、まず、受傷直後に意識消失が生じ、それが6時間以上続くことです。
重症のケースでは、そのまま死亡したり、意識が回復しないまま植物状態となったりすることもあります。
意識が回復した場合、軽症のケースでは元どおりの生活が可能となることもありますが、高次脳機能障害が残ることも少なくありません。
高次脳機能障害とは、脳が損傷したことにより、言語、記憶、思考、注意、行動、感情などの脳機能に障害が生じる状態のことです。
具体的には、以下な症状が現れ、日常生活や社会生活に支障をきたすことがあります。
- 認知障害:新しいことを覚えられない、気が散りやすい、など
- 行動障害:状況に応じた適切な行動ができない、行動を抑制できない、など
- 人格変化:気力や自発性が低下する、怒りっぽくなる、など
- 失行:運動機能に問題がないのに、着替えや食事など日常的な動作が困難になる
現在のところ有効な治療法はなく、急性期には安静にして脳損傷の拡大・悪化を防ぎます。慢性期に入ったらリハビリを開始し、社会復帰を目指すことになります。
びまん性軸索損傷で認定される可能性がある後遺障害等級
びまん性軸索損傷で後遺症が残った場合には、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 症状 |
1級1号(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
びまん性軸索損傷による後遺障害は目に見えないものであるため、適切な後遺障害等級を獲得するためには、認定申請の際に詳しい資料を提出することが重要です。
CTだけでなくMRI画像が必要となりますし、その他にも医師の意見書や診断書、カルテなどの医学的資料、被害者自身や家族が作成した日常生活状況報告書や陳述書など、豊富な資料を準備するようにしましょう。
びまん性軸索損傷で請求できる慰謝料の相場
交通事故でびまん性軸索損傷を発症したら、治療(リハビリも含みます。)期間に応じた「入通院慰謝料」と、後遺障害等級の認定を受けた場合には「後遺障害慰謝料」を請求できます。
入通院慰謝料は入通院期間に応じて金額が異なるため、次項でいくつかの計算例をご紹介します。
後遺障害慰謝料の相場は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 裁判所(弁護士)基準 |
1級1号(要介護) | 1650万円 | 2800万円 |
2級1号(要介護) | 1203万円 | 2370万円 |
3級3号 | 861万円 | 1990万円 |
5級2号 | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
※自賠責保険基準について、2020年3月31日以前の事故では旧基準が適用されるため、上記の金額より低くなることがあります。
交通事故の慰謝料には、自賠責保険基準・任意保険基準・裁判所基準という3種類の算定基準があります。加害者側の保険会社は任意保険基準で慰謝料を算定しますが、自賠責保険基準と同額か、少し高い程度の金額となることがほとんどです。
裁判所基準と他の基準では慰謝料の金額に大きな差がありますので、裁判所基準で慰謝料を請求することが大切です。
びまん性軸索損傷の慰謝料の計算例
びまん性軸索損傷で後遺症が残るケースでは、治療期間が長期に及ぶことになりがちで、数年にわたることもあります。
ここでは、以下の3つのケースを例として、入通院慰謝料の金額を計算してみましょう。
- 入院1ヶ月(30日)、通院6ヶ月(180日)、実治療日数90日
- 入院3ヶ月(90日)、通院12ヶ月(360日)、実治療日数210日
- 入院6ヶ月(180日)、通院15ヶ月(450日)、実治療日数330日
それぞれ、自賠責保険基準と裁判所基準で計算すると、入通院慰謝料の金額は以下のとおりとなります。
入通院期間 | 自賠責保険基準 | 裁判所(弁護士)基準 |
① | 77万4,000円 | 149万円 |
② | 120万円 | 236万円 |
③ | 120万円 | 304万円 |
自賠責保険基準では、入通院慰謝料の金額は、以下のうちどちらか少ない方となります。
- 4,300円×総治療日数
- 4,300円×実治療日数×2
※2020年3月31日以前の事故では、1日当たりの金額を4,200円として計算します。
ただし、自賠責保険では、傷害による損害に対する保険金は120万円が上限とされています。入通院慰謝料の他に、治療関係費や入院雑費、通院交通費、休業損害などを併せて120万円までしか支払われないのです。
任意保険基準では上限額は定められていませんが、入通院慰謝料の金額は裁判所基準よりも大幅に低くなります。
裁判所基準では、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)に掲載されている算出表を用いて、慰謝料額を割り出します。
入通院慰謝料についても、裁判所基準で正しく計算して請求することが大切です。
びまん性軸索損傷のまとめ
びまん性軸索損傷で後遺障害等級に認定された場合は、慰謝料の他に後遺障害逸失利益も請求できます。
その金額は、認定された等級や被害者の年齢、事故前の収入により異なりますが、数千万円に上るケースも多々あります。
適切な金額の賠償金を受け取るためには、後遺障害等級の認定を適切に受けることが極めて重要です。
しかし、びまん性軸索損傷による後遺症は客観的に判別しにくいものであるため、適切な後遺障害等級を獲得することは容易ではありません。
そこで、後遺障害等級認定の申請を行う際には、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
交通事故でびまん性軸索損傷を発症した方や、そのご家族の方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。
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交通事故に関する相談は無料です。交通事故でびまん性軸索損傷を発症した際は、まずはお気軽にお問い合わせください。