交通事故でむちうちになってしまった際の示談金の相場を弁護士が解説
- 執筆者弁護士 山本哲也

交通事故でもっとも多いケガのひとつが「むちうち」です。首の痛みやしびれ、頭痛などが続き、仕事や日常生活に支障をきたすことも少なくありません。しかし、外見からは分かりにくいため、保険会社から提示される示談金が本当に適正かどうか判断しにくいのが実情です。
むちうちの示談金は、治療費や慰謝料、休業損害といった項目の積み上げで決まりますが、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」といった算定基準の違いによって、最終的な金額は大きく変わります。さらに、後遺障害等級が認定されるかどうかも重要なポイントです。
本記事では、むちうちの示談金の決まり方や相場、具体的な計算方法を解説するとともに、実際の事例や弁護士に相談するメリットについてわかりやすく解説します。
保険会社の提示額が妥当なのか不安に感じている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
むちうちの示談金はどのように決まる?

交通事故によるむちうちの示談金は、一律で決まるものではなく、複数の要素を考慮して算定されます。まずは、むちうちの示談金に含まれる賠償項目や算定基準、等級認定の影響について押さえておきましょう。
示談金の内訳
むちうちの示談金には、主に以下のような項目が含まれます。
- 治療費:病院での診察料、投薬費、リハビリ費用など。
- 慰謝料:ケガによる精神的苦痛に対する補償。通院期間や後遺症の有無で金額が変わります。
- 休業損害:ケガのために働けなかった期間の収入減。給与所得者だけでなく、自営業者や主婦も対象となります。
- その他の費用:通院交通費、診断書作成費用など実費として請求できるもの。
これらを合算したものが示談金の総額になります。
自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準の違い
示談金の算定には大きく分けて3種類の基準があり、どの基準で計算するかによって金額が大きく異なります。
①自賠責保険基準
賠責保険が補償額を算定する際の基準。被害者救済のために設けられていますが、金額はもっとも低く抑えられています。
②任意保険基準
各任意保険会社が独自に設定している基準。自賠責基準と同額または若干高めですが、弁護士基準よりは低い傾向があります。ただし、具体的な基準は公開されていませんので、詳細は不明です。
③弁護士基準(裁判基準)
裁判例に基づいて定められた基準で、もっとも高額になります。弁護士に依頼して交渉することで、この基準をベースにした示談金を目指すことができます。
同じケースでも、算定基準の違いによって数十万円~100万円を超える差が生じることもあります。
等級認定の有無が示談金に与える影響
むちうちは、症状が完治せず後遺症が残ることがあり、後遺障害等級が認定されるかどうかが大きなポイントになります。
後遺障害等級が認定されない場合、主に治療費や入通院慰謝料(傷害慰謝料)、休業損害の補償にとどまり、持参金の相場は比較的低めになります。
他方、後遺障害等級が認定された場合、「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」が加算され、示談金が数百万円規模で増額することもあります。
したがって、むちうちの示談金は「どの基準を使うか」「後遺障害が認定されるか」という点が金額を左右する最大の要因といえます。
むちうちの示談金の相場

むちうちの示談金は、後遺障害等級が認められるかどうかで大きく金額が変わります。後遺症が残らないケースでは数十万円程度にとどまる一方、後遺症が残って等級認定を受けた場合には、数百万円規模にまで増額されることもあります。
後遺障害がない場合|10万円~120万円程度
後遺障害が認定されない場合、示談金の中心となるのは通院慰謝料と休業損害です。このうち慰謝料は、自賠責保険基準であれば40万円程度(通院6か月)、弁護士基準であれば90万円程度(通院6か月)が認められる可能性があります。
慰謝料と休業損害を合わせた示談金の相場としては、10~120万円程度が相場になります。
後遺障害がある場合|200万円~1000万円程度
後遺障害が認定されると、上記の損害に加えて、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。このうち、後遺障害慰謝料は、自賠責基準で32万円(14級)または94万円、弁護士基準で110万円(14級)または290万円(12級)が認められる可能性があります。
そのため、後遺障害がある場合の示談金相場としては、200~1000万円程度が相場になります。
つまり、むちうちの示談金は「後遺障害の有無」と「どの基準で計算するか」で大きく変動します。次章では、これらの金額がどのように算定されるのか、具体的な計算方法を詳しく解説します。
示談金の計算方法

むちうちの示談金は、慰謝料・休業損害・逸失利益などを積み上げて算出します。以下では、主な計算方法のポイントを見ていきましょう。
慰謝料の計算方法
慰謝料は大きく「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」に分かれます。算定基準には、自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準があり、弁護士基準がもっとも高額になります。ただし、任意保険基準の詳細は、一般には公開されていませんので、以下では、自賠責保険基準と弁護士基準による慰謝料の計算方法を説明します。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
【自賠責保険基準】
対象日数×4300円で計算します。ただし、対象日数は、「実通院日数×2」と「治療期間(治療開始から治療終了までの総日数)」を比較して少ない方が採用されます。
たとえば、通院6か月(実通院日数50日)のケースでは、4300円×(50日×2)=43万円になります。
【弁護士基準】
弁護士基準の慰謝料は、日弁連交通事故相談センターが発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)により算定します。
たとえば、通院6か月のケースでは、89万円になります。
つまり、後遺障害がないむちうちの場合、弁護士に依頼するかどうかで示談金の額は、数十万円程度の差が生じることになります。
後遺障害慰謝料
むちうちで認定される可能性のある後遺障害は、14級9号(局部に神経症状が残るもの)または12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)です。
【自賠責保険基準】
- 14級9号:32万円
- 12級13号:94万円
【弁護士基準】
- 14級9号:110万円
- 12級13号:290万円
休業損害の計算方法
休業損害とは、事故によって働けなかった期間の収入減を補償するものです。仕事を休まざるを得なかった日数や収入状況に応じて金額が変わります。
給与所得者の場合
事故前の収入を基準に「1日あたりの収入×休業日数」で算定します。たとえば月収30万円の方が1か月間働けなかった場合、30万円が休業損害となります。休業損害を請求する際には、勤務先から「休業損害証明書」を発行してもらう必要があります。
自営業者の場合
確定申告書などをもとに基礎収入を算出します。ただし、実際の収入減を証明するのが難しいケースもあり、弁護士が資料の整理をサポートすることで認められやすくなります。
主婦(主夫)の場合
専業主婦・主夫でも、家事労働の価値が認められます。自賠責保険基準では日額6100円、弁護士基準では約1万円が目安とされており、たとえば1か月間家事ができなかった場合、自賠責保険基準だと約18万円、弁護士基準だと約30万円が休業損害となります。
逸失利益の計算方法
逸失利益とは、後遺障害が残ったことで将来の労働能力が低下し、その分の収入減を補償するものです。
計算式は以下のとおりです。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
- 基礎収入:事故前の年収や家事労働の評価額(主婦の場合は賃金センサスの女性平均賃金など)
- 労働能力喪失率:後遺障害等級ごとに定められており、14級なら5%、12級なら14%といった目安があります。
- 労働能力喪失期間:むちうちのケースでは、14級の場合は5年程度、12級では10年程度が目安です。
- ライプニッツ係数:将来の収入を一括で受け取るために、現在価値に換算する係数です。
たとえば、年収400万円の会社員が後遺障害14級(労働能力喪失率5%・喪失期間5年)と認定された場合の逸失利益は、以下のようになります。
400万円×5%×5年分のライプニッツ係数(4.5797)=91万5940円
山本総合法律事務所のむちうちでの示談金獲得事例
むちうちの示談金は、保険会社の提示では本来より低額に抑えられることが少なくありません。実際に当事務所が対応した事例では、弁護士が介入することで大幅に示談金が増額されたケースが複数あります。以下では、代表的な2つの事例を紹介します。
併合14級が認定され、約375万円を獲得した事例

【事故の概要・相談のきっかけ】
赤信号で停止中、後方から加害車両に追突され、首や肩の痛みが長引きました。医師から「これ以上改善は難しい」と説明を受け、今後の手続きに不安を感じてご相談いただきました。
【当事務所の対応】
- 診療録を精査し、後遺障害診断書案を作成
- 事故状況や症状を基に独自の申立書を作成
その結果、頚部痛・肩部痛について14級9号が認定されました。
【結果】
交渉では、特に主婦の休業損害が争点となりましたが、生活への支障を丁寧に主張し、2か月分以上の休業損害が認定されました。また、慰謝料も裁判所基準に近い水準となり、最終的に約375万円の示談金を獲得できました。
【解決のポイント】
家事従事者の休業損害は立証が難しい部分ですが、治療状況や影響を具体的に主張することで適正な補償が認められました。
異議申立てにより等級が認定された事例

【事故の概要・相談のきっかけ】
自転車で青信号を右折開始した際に、信号無視の車に衝突され受傷しました。頚椎捻挫などの症状が残り、今後の手続の流れがわからないとのことでご相談いただき、そのままご依頼となりました。
【当事務所の対応】
症状固定後、後遺障害申請を行いましたが、当初は非該当と判断されました。
そこで、診療内容の精査と主張書面の作成を行い、異議申立てを実施。
その結果、症状の一貫性などが認められ、14級9号が新たに認定されました。
【結果】
裁判所基準を用いて保険会社と交渉し、
- 傷害慰謝料:約95万円
- 逸失利益:約78万円
- 後遺障害慰謝料:約99万円
合計で約275万円の賠償金を獲得しました。
【解決のポイント】
初回申請が極めて短期間で非該当とされた点を重視し、適切な審査を求めたことが功を奏しました。
また、交渉段階では労働能力喪失期間が争点となりましたが、仕事内容や症状の影響を具体的に説明することで、依頼者にとって妥当な補償が認められました。
交通事故のむち打ちを弁護士に相談するメリット

むちうちの示談交渉では、保険会社から提示される金額が本当に適正かどうか、被害者自身で判断するのは難しいのが実情です。実際に、後遺障害等級が認められるかどうか、どの基準で計算するかによって賠償額は大きく変わります。以下では、弁護士に相談・依頼することで得られる主なメリットを説明します。
保険会社提示額からの増額交渉
保険会社は、通常「任意保険基準」や「自賠責基準」で示談金を提示してきます。そのまま受け入れると、本来受け取れるはずの金額よりも低く抑えられてしまうケースが多いです。
弁護士が介入すると、裁判所の判例をもとにした「弁護士基準」での交渉が可能になり、数十万円から数百万円規模の増額につながることもあります。
後遺障害認定のサポート
むちうちは外見からはわかりにくいため、後遺障害の申請で「非該当」と判断されることも珍しくありません。
弁護士は、診療記録や症状経過を整理し、診断書の作成時に必要なポイントをアドバイスすることで、適正な等級認定を受けられる可能性を高めます。また、万が一非該当となった場合でも、異議申立てによって結果を覆せるケースがあります。
手続き・書類作成の負担軽減
示談交渉では、診断書や通院記録、事故状況の説明資料など、多くの書類を揃える必要があります。慣れていない被害者が一人で対応すると、時間や労力がかかり、内容に不備があれば結果的に不利な示談に応じてしまうリスクもあります。
弁護士に依頼すれば、これらの煩雑な手続きを任せられるだけでなく、法的に有利な形で整理してもらえるため、精神的にも大きな負担軽減につながります。
まとめ

交通事故でのむちうちは、見た目ではわかりにくいにもかかわらず、首や肩の痛みが長引き、生活や仕事に影響を及ぼすことがあります。このような被害に対する示談金は、算定基準の違いや後遺障害等級の有無によって大きく変動します。そのため、保険会社の提示額が必ずしも適正とは限りません。
弁護士法人山本総合法律事務所では、後遺障害認定のサポートや増額交渉を行い、依頼者が正当な賠償を受けられるよう取り組んでいます。むちうちの示談金に不安を感じる方は、ぜひ早めにご相談ください。経験豊富な弁護士が解決に向けてしっかりとサポートいたします。




