事故前の収入の額については、勤務先からの源泉徴収票などにより認定することになります。なお、算定にあたり基礎となる金額は、税金等を控除しないいわゆる税込み金額を用いるものとされています。
しかし、事故前の収入を基礎に死亡逸失利益を算定することが適切でない場合もあります。例えば、若年労働者が交通事故に遭って死亡した場合、若年であるため給与が低水準にとどまっているが将来はかなり昇給することが考えられますが、事故当時の収入を基礎に死亡逸失利益を算定すると、将来の昇給が全く考慮されない結果となります。
そのため、事故時概ね30歳未満の給与所得者については、現実の収入額ではなく、全年齢平均の賃金センサス(平均賃金)を用いて死亡逸失利益を算定することが一般的です(もちろん、現実の収入額の方が高額の場合には、現実の収入額を基礎に算定することになります)。
また、若年労働者であるかにかかわらず、事故前の収入を基礎に死亡逸失利益を算定する場合、(事故後の)将来の昇給が考慮されないことになります。これについては、大企業のように給与規定や昇給基準が確立されている場合には、事故前の収入に将来の昇給を考慮して死亡逸失利益を算定することが認められやすいと言えます。しかし、経済情勢などを考慮して、将来の昇給を考慮することに否定的な判断をした裁判例もありますので、将来の昇給を考慮して死亡逸失利益を算定することが簡単に認められているわけではありません。