執筆者弁護士 山本哲也
保険会社が治療費を医療機関に直接支払うことの意味や注意点について教えてください。
保険会社が医療機関に治療費を直接支払いしたからといって、保険会社が必ずしも治療費の全額を最終的に負担してくれるとは限らないことにご注意下さい。
交通事故の被害者が、医療機関での治療を受けた場合、当然治療費がかかるわけですが、その治療費を、被害者が一度立て替えた後で加害者側の任意保険会社に請求するというケースはまれです。むしろ、その治療費を加害者側の任意保険会社が、最初から直接病院に支払うケースが多くあります。
この方法は、被害者側からすると、治療費を立て替える必要がないので、便利な仕組みと言えます。
しかし、保険会社が医療機関に治療費を直接支払いしたからといって、保険会社が必ずしも治療費の全額を最終的に負担してくれるとは限らないことにご注意下さい。
すなわち、たとえ治療費全額が直接払いされたからといって、保険会社は全額を最終的に負担することを認めたというわけではなく、保険会社の最終的な負担額(つまり被害者の最終的な損害賠償金額)は、その後の示談交渉ないしは訴訟等により決まるのであって、それゆえ、保険会社が払い過ぎた分については、後に被害者に対して返還請求することも可能なのです。つまり、保険会社は、最終的な負担額が決まる前の時点においては、治療費の少なくとも一部については立替払いをしているに過ぎないという可能性が残されているということです。
この点、例えば、被害者にも過失があった場合、過失相殺といって、損害のうち一定の割合は被害者自身で負担することになります。このような場合、保険会社が一旦治療費を全て直接支払いしても、後で過失相殺の分を、被害者に支払う慰謝料から減額したり、あるいは返還請求してくる、ということもあり得るのです。
以上の点につき、特に、健康保険を使用しないで自由診療において治療を受けた場合、治療費も高額になってしまい後に大きな負担となってしまうこともあり得ますので、ご注意ください。