1 算定方法

 死亡事案における逸失利益は、被害者が死亡しなければその後の就労可能な期間において得ることができたと認められる収入の金額から、支出されたであろう生活費を控除し、就労可能な期間の年数に応じた中間利息の控除を行って算定されます。

【基準】
 基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
の算定方式で算定します。

2 基礎収入について

(1) 給与所得者

 給与所得者については、原則として、事故前の現実収入の金額を採用します。
 一般に、基礎収入の金額の証明については、できる限り公的な資料をもってされるべきです。給与所得については、多くの場合に、休業損害証明書や源泉徴収票等によって立証されますが、これらは基本的には私文書であって、それらの記載内容の信用性が十分でない場合等には、更に納税証明書や課税証明書の提出が必要とされます。

 この点、就業期間が比較的短期であり、事故前の現実収入の金額が賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の被害者の属する性の学歴計(又は学歴別)・年齢別平均賃金より低額であっても、おおむね30歳未満の被害者については、事故時の職業、事故前の職歴と稼働状況、現実収入の金額と上記の平均賃金との乖離の程度及び乖離の原因等を総合的に考慮して、将来的に生涯を通じて賃金センサスの被害者の属する性の学歴計・全年齢平均賃金(又は学歴別・全年齢平均賃金)程度の収入を得ることができる蓋然性が立証された場合には、原則として死亡した年の賃金センサスに基づき、上記の全年齢平均賃金を基礎収入として採用することができるといわれています。

(2) 事業所得者

 事業所得者については、原則として、事故前の申告所得額を採用します。
 一般的には、確定申告書や添付書類の控えによって立証されますが、確定申告書の控えに税務署の受付日付印がない場合には注意が必要です。提出された証拠の信用性が十分でない場合等には、さらに納税証明書や課税証明書の提出が必要とされます。
 年によって所得額の差が大きい場合には、事故前数年の平均の金額を採用することが一般的です。

 申告外にも所得があった旨の主張が提出されることも多いが、そのような主張をすること自体は一概に排斥されるわけではないにせよ、修正申告がされた等の事情があれば格別、いわば自己矛盾を含む主張であることから、認定は厳格なものとならざるを得ません。

 立証においても、収入や経費について、会計帳簿、伝票類、日記帳、レジの控え等のいわば一次資料によることが必要とされることも多く、これらにつき、文書の体裁等を含めた信用性の吟味や、過去の業績や経費率等に関する統計と対比しての検討も行われます。

 これらは、被害者が収入につき申告をしていなかった場合や、申告に係る所得額の信用性が問題とされる場合にも同様です。

(3) 会社役員

 会社役員については、原則として、事故前の報酬の金額を採用します。
 利益配当の実質を有する部分がある場合に、その部分を除く労務対価に相当する金額を採用するか否かについては、死亡以外の事案においてはこれを採用するとすることで格別異論をみませんが、死亡事案においては、なお議論があります。

 労務対価部分が報酬に占める割合(寄与率)は、会社の規模・営業状態、老害役員の職務内容・報酬額、他の役員や従業員の職務内容・報酬額・給与額等を勘案して判断することになります。

(4) 家事従事者

ア 専業主婦

 専業主婦については、原則として、死亡した年の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金を採用します。専業主婦がする家事労働については、金銭の授受というものは存在していませんが、裁判例から、財産上の利益を生ずるものと考えられています。

イ 兼業主婦

 兼業主婦については、現実の収入額と、死亡した年の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金を比較して、いずれか高い方を採用することになります。兼業主婦であっても、現実の収入額と家事労働分を加算することはない点に留意する必要があります。

(5) 失業者

 失業者については、死亡時には現実の収入はなかったことになりますが、年齢、職歴、就労能力、就労意欲等に鑑み、再就職の蓋然性が認められれば、逸失利益の発生が認められます。

 その場合の基礎収入としては、基本的に、再就職によって得ることができたであろうと認められる収入の金額となりますが、実際には、再就職が内定していたといった場合を除き、確定した金額を立証することが必ずしも容易にできるわけではありません。

 そのようなときには、被害者の年齢、学歴その他の経歴や生活状況、健康状態、失業に至った経緯と就労していなかった期間の長さ、再就職の見通しの有無等を総合考慮し、就労意欲がまったくないといった事情がある場合は別論として、失業前の収入の金額も参考としつつ、賃金センサスを用いて蓋然性の高い基礎収入の金額を認定することも行われています。

(6) 学生、生徒、幼児等

 学生、生徒、幼児等については、原則として、死亡した年の賃金センサスの被害者の属する性の学歴計・全年齢平均賃金を採用します。

 これらの被害者は、死亡時には現実の収入はなかったものですが、特段の事情のない限り、しかるべき時期に就労して収入を得ることができたであろうとみるのが相当です。もとより、その金額を確定的に認定することは困難ですが、判例上は、例えば被害者が幼児である場合にも、証拠と経験則に基づき、できる限り蓋然性のある金額を認定して逸失利益の賠償を認めるべきものとされています。

 一方、大学生や大学進学の蓋然性が立証された被害者については、死亡した年の賃金センサスの被害者の属する性の大卒の全年齢平均賃金が用いられることもありますが、そのような場合、中間利息の控除にあたっては、就労の始期を大学卒業予定時期として計算することになります。

(7) 高齢者、年金受給者等

 おおむね65歳以上であって、死亡時に就労していなかった被害者については、就労の蓋然性の立証があることを前提に、原則として、死亡した年の賃金センサスの被害者の属する性の学歴計・年齢別平均賃金を採用します。

 被害者が死亡時に年金等の支給を受けていた場合に、これらの年金等につき逸失利益として賠償が認められるか否かは、①当該年金等の給付の目的、②拠出された保険料と年金等の給付との間の対価性、③年金等の給付の存続の確実性に基づいて判断されることになります。

3 生活費控除率について

 被害者が死亡した場合、存命であれば必要であった収入を得るための生活費の支出を免れることから、損益相殺の考え方に基づき、逸失利益の算定に当たり被害者本人の死亡後の生活費を控除します。
 もっとも、実際に支出を免れた生活費の金額を個々に認定することは困難であることから、実務上は、被害者の所得、生活状況、被扶養者の有無・人数、性別等を勘案して次のような分類に従って、収入の30%ないし50%をもってこれにあたるものとみて、控除することとしています。
 
・一家の支柱(その収入を主として世帯の生計を維持していた者)
  被扶養者1人 40%
  被扶養者2人以上 30%
・女性(主婦、独身、幼児を含む。) 30%
・男性(独身、幼児を含む。) 50%

4 就労可能年数について

 就労可能年数は、原則として、死亡時から67歳までとします。被害者が未就労者である場合、就労の始期については、原則として18歳とされますが、例えば被害者が大学生である場合には大学卒業予定時とされることがあります。

 67歳を超える者については、簡易生命表の平均余命の2分の1とします。67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる者については、平均余命の2分の1として計算します。